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秋田犬とは? 『秋田犬』を読んで

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 つい最近のこと大寒波のニュースで東京の渋谷駅の中堅ハチ公像と外国人観光客が写真を撮っている映像が流れていた。国の天然記念物かつ唯一の大型日本犬である秋田犬がいる。ハチ公も秋田犬である。

最近秋田犬は世界中で人気を寄せている。秋田犬はプーチン大統領ヘレン・ケラーなど世界的な著名人にも愛されている。
本書では秋田犬は世界では人気である一方、日本では秋田犬の数の減少、犬ブリーダーの高齢化・後継者問題など危機への警鐘を鳴らしている。そんななか秋田犬の絶滅を食い止めようとする動きがある。例えば、秋田県大館市ではJR大館駅前に観光交流施設「ハチ公の駅」を建設することが発表されている。秋田犬を守ることと大館市の観光振興が狙いだそうだ。

 また秋田犬について科学的な観点から書かれていたのも興味深かった。筆者曰く、秋田県の毛の問題は感情的な議論になりやすいとのこと。明治時代までに遡る。秋田犬は明治時代に生まれた犬種であるといわれている。当時は東北地方にいたマタギと呼ばれる猟師によって飼われていた飼い犬でマタギ犬とも呼ばれていた。秋田全域では犬同士を戦わせる闘犬大会が幕末から明治にかけて流行り、金持ちたちの飼っていた体格の大きい犬を掛け合わせてできたものだと言われている。このことでマタギ犬の大型化が始まり、外国からはドイツ人の鉱山技師が連れてきた大型洋犬との交雑が進み今につながる秋田犬が誕生したといわれる。特徴は忠実であり立ち耳・巻き尾の姿はかつてのマタギ犬で体が大きくなったといわれる。大正にはいると欧米の文化を取り入れる欧化主義を批判して、日本の伝統を重んじる国粋主義の運動が広がった。その時に注目されたのが秋田犬である。その後国の天然記念物第一号に認定され翌年にはハチ公がマスコミに取り上げられる。そして戦時中には軍用犬として活用もされ軍国主義の象徴にもなる。戦後には渋谷駅前のハチ公像ができる。秋田犬は戦後には日本にいる駐留軍の間に人気になり、1950年頃には番犬として飼う人が増えた。そして高度経済成長期に入ると秋田犬ブームが隆盛期をむかえた。海外では人気がでる一方、日本では秋田犬の衰退が進んでいる。
 

 

 2000年代になると、科学的観点から日本犬に注目が集まったいるそうだ。犬にもゲノム解析研究が進められたことで、秋田犬などの日本犬はオオカミに近い遺伝子を持っていることが分かったそうだ。人にべったりと甘えずに凛々しいたたずまいをしたことが、オオカミに近いことが理由であると言われている。麻布大学獣医学部の菊水教授によると、日本犬の特徴は犬のルーツを明らかにするためのカギになるとのこと。菊水教授は犬の行動を遺伝子レベルから解明を目指している研究者である。

 菊水教授によると、「犬とオオカミは共通の祖先をもっていることは間違いなく、種の単位で言うと同じ種。犬と人がともに暮らし始める数万年前から、オオカミとは別の亜種になったというのが有力な説。従来は遺跡から出た骨を根拠に約1万年前に分化したと推定されてきたが、さらに遡る可能性が出てきた。というのも、ロシアの洞穴で発掘された約三万三千年前の頭蓋骨に、犬にあってオオカミにないないものとされるストップがはっきりとあったから。このことから頭蓋骨は犬のものだろうと言われている。ただ確実ではない、これがあると犬、オオカミといった結論が出せるまで分子遺伝学が到達していないからである。」と本書で述べていた。

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 さらにストップ以外の犬とオオカミの違いは、行動だと述べている。「人とのコミュニケーションする能力」「人に対する依存度」が大きく違うとのこと。現在菊池教授はその行動の違いを生む遺伝子を探すために研究に慎んでいる。私は本書を読んで犬の遺伝子研究が実生活にどのように役に立つのかがものすごく気になった。

 

 

 最後にハチ公銅像のエピソードに触れておきたい。本書によるとハチ公銅像は二代目である。初代像はハチ公の生前に作られ、その銅像の彫刻家・安藤照氏は戦争の空襲で命を落とす。初代銅像終戦前に静岡県浜松市の工場で機関車の材料として溶かされる。安藤照氏の息子士氏は戦争が終わっても喜べなかったという。父とその力作が戦争によって奪われたからである。戦争が終わってからハチ公像再建の運動が始まった。しかし戦争で銅が圧倒的に足りなかったといわれる。その中、士氏は父・照氏の力作の女性像「大空に」の一部を見つけた。士氏によって作られた二代目のハチ公は1948年8月15日に渋谷駅前に再建された。本書のエピソードを読んで、息子の士氏は父親の無念を晴らすためにハチ公で表現したと感じた。また再建日が終戦記念日である8月15日というのも奇遇である。これは戦争が二度と起こらないようにといったメッセージもあるのではと感じた。筆者はこのエピソードを通してハチ公銅像があるのは戦前の人の頑張りであり、そのことを知ってほしいと思って書いたのではないかと思う。

 

 

 本書『秋田犬』の著書 宮沢輝夫氏は読売新聞社の記者として活躍している。幼少期は昆虫好き文学少年であった。大学時代に小説『ハチの巣とり名人』で第7回舟橋聖一顕彰青年文学賞を受賞した。その後読売新聞社に入社した。秋田支局で秋田県政キャップを務めながら、秋田犬やハチ公の記事を書いて、秋田犬の復興を呼びかけている。
本書のカバーには愛嬌のある秋田犬がさあ戌年だから僕を含めた犬のことについてもっと知ってほしいと呼び掛けているように感じた。僕は犬が苦手だが、カバーの犬や内容が気になって大学生協で買った。 

 

 

秋田犬 (文春新書)

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